1994年6月23日,神戸大学理学部附属臨海実験所(現:内海域環境教育研究センター)におられた井口博夫さんと,実験所の調査船「おのころ丸」で沼島の海岸線に沿った調査をおこなっている時に,さや状褶曲(Sheath fold)を発見しました (前川他, 2001).当時,他地域でさや状褶曲が見つかっており(Wallis, 1990),私は多少の期待をもって探していました.幾重にも重なる平行な地層が凹凸状に浸食されると,見る方向によっては同心円状のさや状褶曲に似た構造に見えます.そのため,さや状褶曲と誤認されやすく,さや状褶曲を正しく同定することは容易ではないのですが,沼島ならみつかるかもしれないとの思いを強く持っていました.沼島では海岸線沿いの岩石の露出が素晴らしく良いのです.最初の上陸地点だったと思います.沼島北端部の黒崎で岩場に取り付き,すぐにさや状褶曲をみつけました.わたしが「うわあ,やった,すごい!」と叫び,「どうしたの前川さん」と井口さん,その時の光景は今でもよく覚えています.
最初の頃,内陸側から黒崎の海岸まで降りるのは困難を極めましたが,沼島中学校の教員をしておられた榎本哲二さんが,沼島の周回道路から黒崎までのルートを切り開いてくださいました.おかげで苦労せずにさや状褶曲まで行くことができるようになり,その後の調査が随分はかどりました.
私たちの調査活動が次第に知られるようになり,1997年12月18日にさや状褶曲が『1億年の地球のしわ』というタイトルで,神戸新聞で初めて紹介されました.1998年2月7日,淡路島に世界一の化石博物館を作る会を主催しておられた金田亮信さんに請われ,榎本さんと二人でさや状褶曲の案内をしました.金田さんは大きなビデオカメラをもった方と一緒にこられました.「立派なカメラですね,いくらぐらいするんですか」と訊ねたら,「1000万円ぐらいかな」とおっしゃって,ちょっと驚きました.紹介がなかったのでテレビ局の人かも知れないぐらいに思っていましたが,20日夕方,サンテレビのニュースでさや状褶曲が紹介され,初めて本当にテレビ局の方だったことがわかりました.とにかく,当時は何事ものんびり進んでいたような気がします.それ以降,金田さんは小学生達を毎年見学に案内されていました.金田さんに最後にお会いしたのは,2005年7月9日に実施されたさや状褶曲の見学会の時でした.その後,病で亡くなられたと聞きました.子供好きで物静かな方でした.
早いものでさや状褶曲発見から30年が過ぎました.さや状褶曲は専門外のこともあり原著論文は出せずじまいでしたが,泥質片岩と蛇紋岩の研究でいくつかの岩石学の論文を公表させていただくことができました.沼島は,私にとってまさに宝の山の島でした.これらの成果については,改めて別に紹介させて頂くこととし,ここでは沼島のさや状褶曲に焦点を絞って説明させていただくことにしたいと思います.ステレオ投影図(図5,図22)などで,一部詳しい説明を省いていますが,読み飛ばして頂いて支障ありません.その点,ご了承ください.
------------------------------------------------------------------------
“Sheath fold”の日本語訳には複数あります.「新版 地学事典」(古今書院,1996)では「鞘形褶曲」,狩野・村田著「構造地質学」(朝倉書店,1998)は「鞘状褶曲」,日本地質学会編「地質学用語集」(共立出版,2004)は「鞘褶曲」となっており,最近出版された古今書院の地学事典の改定版「最新 地学事典」(古今書院,2024)では狩野・村田(1998)で用いられたのと同じ「鞘状褶曲」に変更されています.沼島の“Sheath fold”は、2017年3月14日に「さや状褶曲」として県指定の天然記念物に指定されています.「鞘」は常用漢字に含まれていないこともあり,ここでは天然記念物としての表記に合わせ「さや状褶曲」を用いることにします.
【三波川変成帯】
もともとあった岩石が,できたときとは違う温度や圧力に長い間さらされると,岩石中の鉱物は不安定になり,鉱物の化学組成が変わったり,新しい鉱物ができたりします.このような作用を変成作用といい,できた岩石を変成岩といいます.変成作用の間に一定の方向から力を受けると,板状ないし棒状の鉱物が力の方向と垂直な面方向に配列し,それにそってはがれやすくなります.このような構造を片理と呼び,片理をもった変成岩を結晶片岩といいます.
火成岩や火山砕屑岩など火成活動に関係してできた岩石類が,力が加わった状態で変成作用を受けると緑色片岩になります.鉄やマグネシウムを含む変成鉱物の多くが緑色をしているため,岩石も緑色を帯びます.泥岩や砂岩起源の結晶片岩は,それぞれ泥質片岩と砂質片岩といいます.泥質片岩は,炭化した植物片を含むため,多くの場合,黒色を呈し,黒色片岩と呼ばれることもあります.砂質片岩は,石英や長石の粒を含むため灰白色になります.
三波川変成帯は,緑色片岩と泥質片岩を主とする変成岩類からなり,西は九州東部から東は関東山地まで東西方向に細長く帯状にのびています(図1).三波川変成帯は,温度のわりに圧力が高い条件で形成された低温高圧型変成帯に分類されます.日本海溝のような海溝では,冷たい海洋プレートが,年間10 cm前後の速度で他のプレートの下に沈み込んでいます.このようなところでは,地表の堆積岩や火成岩は地下深部へどんどん引きずり込まれ,もともとできたときより高い温度と圧力の場所にもち込まれます.沈み込むプレートの周囲では,冷たいプレートのために周囲が冷やされ,深さ(圧力)のわりに温度が低い"低温高圧"条件の領域ができますが,三波川変成帯は,このような領域でできたと考えられています.
【沼島の三波川変成岩類】
沼島の海岸沿いの緑色片岩の大露頭
沼島は三波川変成岩類が露出する兵庫県で唯一の地域です(図1).近接する淡路島との間には,日本最大の活断層である中央構造線が東西方向に走っており,淡路島南部は広く砂泥互層からなる和泉層群で占められています.沼島の三波川変成岩類の露出状況は,内陸部では非常に悪く露頭はほとんどありませんが,それとは対照的に海岸沿いはきわめて良好で,どこでも連続露頭が観察できます.地元の方に見せていただいた戦前に作成された沼島全域のルートマップによると,かっては沼島の内陸部でも変成岩類が良く露出していたようです.沼島の三波川変成岩類は,南部〜中部にかけて泥質片岩が広く分布しており,北部は緑色片岩が卓越しています(図2).泥質片岩は黒色〜灰黒色,緑色片岩は緑色〜淡緑色を呈します.また,灰白色の石英片岩の薄層が随所に認められ,石英片岩には紅簾石を含み淡赤色を呈するもの(紅簾石片岩)も珍しくありません.
南東部海岸沿いの上立神岩付近には,蛇紋岩体が露出しています.蛇紋岩体は泥質片岩と接しており,境界部付近の泥質片岩中には,しばしば鮮やかな緑色を呈するトレモラ閃石−滑石−緑泥石岩が,レンズ状にあるいは数cm〜数十cmの層として認められます.岩石化学的な研究から,この岩石は三波川変成作用の時に蛇紋岩が周囲の泥質片岩と元素のやりとり(交代作用)をしてできた岩石であることがわかっています(前川, 2003).この岩石には多くの珍しい鉱物が含まれていますが,その中でもモナザイトという鉱物の比較的大きな結晶がでます.この鉱物にチャイム法という方法で年代を求めると,2つの試料からそれぞれ92.3±3.2 Maと90.3±4.7 Maという変成年代が得られました.Maは百万年前を表しますので,変成作用の年代は,今から9500〜8500万年前ということになります(Suzuki et al., 2018).
三波川変成帯は,変成温度の違いによって,緑泥石帯(400±50℃),ザクロ石帯(500±50℃),黒雲母帯(600±50℃)の3帯に分けられ,さらに黒雲母帯は,斜長石の組成*により,低温側の曹長石-黒雲母帯と高温側の灰曹長石-黒雲母帯に分けられています.これらは,泥質片岩に含まれる鉱物種に基づいています.沼島の変成岩類は,曹長石-黒雲母帯に属しています.
*斜長石はNaAlSi3O8とCaAl2Si2O8がいろいろな割合で混じり合って固溶体をなしています.Ca/(Na+Ca)比が0〜0.1の斜長石を曹長石(albite),0.1〜0.3の斜長石を灰曹長石(oligoclase)と呼びます.一般に温度の上昇とともに,Caが増える傾向があります.
三波川変成帯では,ざくろ石帯付近から高温部にかけて,径1-2mmの丸い粒(斜長石の斑状変晶)が数多くできるので,低温側の緑泥石帯とは野外でも比較的容易に区別できます.斑状変晶とは,変成作用により他に比べて大きく成長した結晶のことで,三波川変成帯で斜長石の斑状変晶を含む地域を点紋帯と呼ぶことがあります.斜長石の斑状変晶は沼島でもごく普通に見ることができます (図3).斑状変晶をつくる斜長石はNaに富む曹長石ですが,核部より縁部の方がCa/(Na+Ca)比が高い傾向があり,斑状変晶が昇温期に形成されたことを示しています.
泥質片岩の主要な変成鉱物は,黒雲母,白雲母,ザクロ石,石墨,石英,斜長石,緑泥石,クサビ石で,時に緑簾石,角閃石(バロア閃石,藍閃石)が含まれます.また少量ですが,電気石や燐灰石もしばしば含まれます.沼島の泥質片岩には全域にわたって黒雲母が含まれています.泥質片岩に含まれる斜長石が常に曹長石であることから,黒雲母帯の中でも低温側の曹長石−黒雲母帯に相当する変成条件(およそ1.1 GPa,600℃)で形成されたと考えられます.緑色片岩の主な変成鉱物は,角閃石(バロア線石,藍閃石〜鉄藍閃石,アクチノ閃石),緑簾石,黒雲母,白雲母,ザクロ石,石英,曹長石,緑泥石,クサビ石です.泥質片岩と同様,少量の電気石や燐灰石もしばしば含まれます.緑色片岩と石英片岩には,偏光顕微鏡下で青〜紫色の藍閃石を多量に含むものがあります.藍閃石は高圧条件で生じ,三波川変成帯の変成作用を特徴づける鉱物です.
【変形とそのタイミング】
地殻深部で,長い期間にわたって力を加え続けると,どんなに硬い岩石も,あたかも水飴のように流動し変形します.沼島に分布する変成岩類には,片理(面構造)や伸長線構造(stretching lineation)が大変良く発達しています.また,地層が曲がることによってできる褶曲もしばしば見られます.これらの変形構造は,変成作用時に加わった力によって形成されたものです.変形には,働く力(応力)の軸が一致するもの(同軸変形)と,一致せず回転を起こすもの(非同軸変形)の2種類があります.概して前者では左右対称,後者では左右非対称の変形構造ができます.線構造に平行で片理面に垂直な面で観察すると,三波川変成岩類の変形組織の多くは左右非対称であることから,変形は主に非同軸変形によって形成されたと考えられます.伸長線構造は,地殻内部における岩石の流れそのものを示しているといえ,非対称な変形組織を用いると,流れの方向(センス)を知ることができます.伸長線構造は,(1)白雲母や緑泥石,藍閃石,バロアサイト,などの再結晶鉱物の配列,(2)引き延ばされた斑状変晶の配列,(3)斑状変晶の周囲に発達した緑泥石や白雲母などのプレッシャー・シャドウの方向,などによって生じます.実は,さや状褶曲は伸張線構造の形成と強く関係しています。
図4 泥質片岩中の斜長石結晶の周りに発達したプレッシャー・シャドウ.PS:プレッシャーシャドウ (左:開放ニコル,右:直交ニコル)
図4 緑色片岩中の回転した曹長石の斑状変晶.内部に含まれる包有物の層がわずかに回転している.(左:開放ニコル,右:直交ニコル)
沼島の変成岩類に発達する片理面は,南北〜西北西の走向をもち (NS〜N70˚W),20˚ から45˚ 東あるいは東北方向に傾斜しており,伸長線構造は,片理面内に発達しており,東西〜東北東方向に集中し,傾斜はほぼ水平です (図5).一般に,三波川変成岩類に発達する伸長線構造は変成帯の延長方向に並行で,沼島の変成岩類に認められる伸長線構造の方向も,四国〜紀伊半島の三波川変成帯の延長方向にほぼ一致しています.
曹長石斑状変晶は線構造形成に伴う影響を強く受けており,そのX−Z方向(図6,図8)では,斑状変晶は引き伸ばされて細長くのび,時にブ−ディン状にちぎれてその間が石英などで充填されています.斑状変晶の中の平行配列をなす包有物も引き伸ばされ,分断されています.一方,Y−Z面では,斑状変晶が互いに集まりぶつかり合い,歪んだ太った形状を,また,包有物も圧縮され,著しく褶曲した配列パターンを示しています(図6,図9).このことは,Z軸方向と同様にY軸方向でも圧縮があったことを示し,X軸引張,Y軸,Z軸圧縮の球体を一方向に引き延ばしたラグビーボールのような形 (プロレート)の歪み楕円を示唆しています.曹長石斑状変晶の変形は,斑状変晶が縁部でCa/(Na+Ca)比が高くなる累帯構造を持つことから,最高温度期から降温期にかけて起こったと考えられます (図7).
図8 泥質片岩の偏光顕微鏡写真 (X-Z面).曹長石斑状変晶が引き伸ばされ,包有される炭質物層が引きちぎられている.(左:開放ニコル,右:直交ニコル
図9 泥質片岩の偏光顕微鏡写真 (Y-Z面).Y方向に圧縮され、曹長石斑状変晶が集まってぶつかり,包有される炭質物層が褶曲している.[左:開放ニコル,右:直交ニコル)
さや状褶曲が認められる黒崎周辺には、藍閃石を含む石英片岩がしばしば認められます.図10-図12に示しますように,藍閃石の結晶の縁にはより高温で安定なバロア閃石が認められ,しばしば伸張線構造の方向に引き伸ばされています.結晶が引きちぎられてできた空隙には,高温で生じる黒雲母が埋めています.このことは、温度上昇の過程で,藍閃石の周囲にバロア閃石が形成されたこと,黒雲母の安定条件まで温度が上昇し,藍閃石が剪断応力によってちぎれ,その空隙に黒雲母が生じたこと、(2)その後,比較的短期間に温度が下降したために,藍閃石の大部分が高温相のバロア閃石に置換されずに残ったこと,を示唆しています.その温度変化の概要を説明するために、おおよその相関係を示す図を上げておきます(図13).
【さや状褶曲】
さや状褶曲の観察できる露頭は,沼島北端の黒崎のやや東側,海岸線上に位置しています.海岸沿いの約4×4平方メートルの広がりをもつ孤立した岩体で,干潮時には濡れずに容易に岩体にとりつくことができますが,満潮時には岩体中央の高い部分を残して水没してしまいます.さや状褶曲をもつ岩体は,灰黒色の泥質成分を含む石英片岩からなり,緻密で大変堅いのが顕著な特徴といえます.石英,ザクロ石,白雲母,黒雲母,緑泥石,クサビ石,燐灰石を変成鉱物として含みます.さや状褶曲は,上下方向に扁平な同心円上の構造をなし,長径10cm〜40cmの大きさをもっています.数個はすぐにわかりますが,少し時間をかけて丁寧に観察すると7〜8カ所程度は容易に見つかります.黒崎周辺は緑色片岩が卓越しています.緑色片岩は玄武岩質の溶岩や火山砕屑岩が三波川変成作用を受けてできた岩石で,さや状形褶曲をもつ石英片岩は,これら玄武岩質の溶岩や火山砕屑岩中に挟在する数m〜十数m程度の珪質層(生物の遺骸からなるチャート)に由来する(変成作用を受けたもの)と考えられます.
Quinquis et al. (1978)は,フランス,ブルターニュのIle de Groix(グラ島)の高圧変成岩から,三次元的にさや状の形をした褶曲を記載し,それをはじめて"sheath fold(さや状褶曲)"と名づけました.地層に力が働くと,地層は図23(a)のように褶曲します.地層が例えば堅さに関して均質でない場合,(b)のように,部分的に引きずられる程度が大きい箇所ができます.それらの箇所が,単純剪断により増幅され変形が進行すると,(c)のような変形構造が形づくられます.線構造の方向に垂直な切断面では,飛び出た部分で同心円上のパターンがみられます.このように,さや状褶曲は,片理面上での局所的な乱れが増幅することにより発達することが,Cobbold and Quinquis (1980) の模擬実験でも示されています.さや状褶曲の長軸(伸びの方向)は引き伸ばし線構造の方向にほぼ一致し,さや状褶曲は単純剪断によって生じる特異な褶曲といえます.
さや状褶曲は,Quinquis et al. (1978)の最初の報告以来,イタリア(Minnigh, 1979),スウェーデン (Skjernaa, 1989),台湾(Lu and Wang Lee, 1986),日本(Wallis, 1990; 山本・渡邊, 1996),オーストラリア (Goscombe, 1991),アパラチア (Mies, 1993),カナダ (Henderson, 1981)など,世界各地から報告されています.これらの地域の中には,地質図に基づいてキロメートルスケールのさや状褶曲の構造が推定されているものもあります.さや状褶曲が形成されるには,岩石の物性,温度,応力などの諸条件が整っている必要があります.また,観察する露頭面が線構造の方向に垂直でない場合は,誤認する可能性も高い.沼島北端の黒崎付近で発見されたさや状褶曲をもつ石英片岩の岩体は,海岸沿いに位置しているため露出が非常に良く,さや状形褶曲の産状を3次元的に観察することができるきわめて希な例といえます.これまでわが国では,四国中央部三波川変成岩類(Wallis , 1990) ,長崎変成岩類(山本・渡邊, 1996)など数カ所からさや状形褶曲が報告されています.しかし,多くは小規模で線構造に垂直な面でしか観察することができず,沼島のように3次元的に観察できるのは,山本・渡邊(1996)が報告した長崎変成岩類のさや状褶曲以外にはありません.
三波川変成岩類に発達する引き伸ばし線構造は,プレート沈み込み帯内部で変成作用が進行している時,温度が最も高くなったときに発達したと考えられます.沼島では,曹長石斑晶の組成や角閃石の累帯構造、黒雲母の産状などから,変成温度が最高になったときに剪断運動によって引きちぎられていることがわかります.三波川変成帯の現在の分布が過去に存在した海溝の延長方向に並行であったと推察されるので,伸長線構造は,海洋プレートの斜め沈み込みによって生じた海溝に平行な単純剪断変形によって生じた可能性が考えられます.さや状褶曲の延びの方向は,伸長線構造に一致しており,付加体内で発生した単純剪断によって形成されたと考えられます.
【付記】
沼島のさや状褶曲は,これまで何度もテレビや新聞で紹介されています.新聞で初めて紹介された翌年,1998年6月20日(土)には,沼島で講演をさせて頂きました (図24).会場は現・沼島市民総合センターの2階だったと思いますが,約100名の住民の方々が集まってくださいました.当時の沼島の人口が約900名,小中の子供達はスポーツ大会で明石に行き参加できなかったとのことで,にもかかわらず多くの方が参加されて大変驚きました.私にとってはかけがえのない良い思い出となりました。
なお,沼島のさや状褶曲は,2017年3月14日に兵庫県の天然記念物に指定されています.https://www.city.minamiawaji.hyogo.jp/bunkaisan/bunkazai/r-39.html
私が把握している書名のわかるものだけですが,沼島のさや状褶曲を紹介した書籍を挙げておきます.
地学団体研究会編 新版地学教育講座④ 岩石と地下資源 (東海大学出版会 1995)
ひょうごの地形・地質・自然景観 神戸新聞総合出版センター(1981)
ナショナルジオグラフィック 日本語版 日経ナショナル ジオグラフィック社(2000.6)
地学団体研究会編 新版 地質調査法 (地学団体研究会(2001)
日本地質学会編 日本地方地質誌 近畿地方 朝倉書店(2009)
日本地質学会・構造地質部会編 日本の地質構造100選 朝倉書店(2012)
引用文献
Cobbold, P. R., and Quinquis, H. (1980) Development of sheath folds in shear regimes. Journal of Structural Geology, 2, 119-126.
Goscombe, B. (1991) Intense non-coaxial shear and the development of mega-scale sheath folds in the Arunta Block, Central Australia. Journal of Structural Geology, 13, 299-318.
Henderson, J. R. (1981) Structural analysis of sheath folds with horisontal X-axes, northeast Canada. Journal of Structural Geology, 3, 203-210.
Lu, C. Y., and Wang Lee, C. (1986) The sheath folds in the Tananao Group between Tienshiang and Tailuko, east-west cross-Island highway, Taiwan. Tectonophysics, 125, 125-131.
前川寛和・井口博夫・榎本哲二 (2001) 兵庫県南端部,沼島に分布する三波川変成岩類から発見されたさや状褶曲.地質学雑誌, 107, V-VI.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc1893/107/3/107_3_V/_pdf/-char/ja
Mies, J. W. (1993) Structural analysis of sheath folds in the Sylacauga marble group, Talladega slate belt, southern Applachians. Journal of Structural Geology, 15, 983-993.Berlenbach, J. W., and Roering, C. (1992) Sheath-fold-like structures in pseudotachylytes. Journal of Structural Geology, 14, 847-856.
Mining, L. D. (1979) Structural analysis of sheath-dolds in a meta-chert from the Western Italian Alps. Journal of Structural Geology, 1, 275-282.
Quinquis, H., Audren, Cl., Brun, J. P., and Cobbold, P. R. (1978) Intense progressive shear in Ile de Groix blueschists and compatibility with subduction or obduction. Nature, v. 273, p. 43-45.
Park, A. F. (1989) Geometry of sheath folds and related fabrics at the Luikonlahti mine, Svecokarelides, eastern Finland. Journal of Structural Geology, 10, 487-498.
Skjernaa, L. (1989) Tubular folds and sheath folds: definitions and conceptual models for their development, with examples from the Grapesvare area, northern Sweden. Journal of Structural Geology, 11, 689-703.
Wallis, S. R. (1990) The timing of folding and stretching in the Sanbagawa Belt, the Asemigawa region, Central Shikoku. J. Geol. Soc. Japan, 96, 345-352.
山本啓司・渡邊和哉(1996)(口絵)九州西部、天草下島における結晶質石灰岩のシース褶曲. 地質雑, 102, XIII-XIV.
(2024年10月30日)